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脳と五感に訴えかける変なアニメーション映画の世界

2017.08.18

アニメやコミックなどのポップカルチャーが盛んな日本だが、どれほどの人が『変態アニメーション』というワードを聞いたことがあるだろうか。
現在、ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開されているのが『変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイト2017』だ。“変態(メタモルフォーゼ)”はそもそも、ある画から別の画に徐々に変形させていくアニメーションの手法のことだが、この上映会ではその言葉を拡大解釈。作家がやりたい放題でつくっているおかしなアニメーションが上映される。今回は、日本ではあまり観る機会のない衝撃的な内容の短編アニメーション19本が世界中から集められた。なぜこんな変わった作品が集められたのか、主催者の方にもお話を伺いながら考察していく。


『変態アニメーションナイト2017』


■『スペース・スタリオンズ』-ソーバルダー・グンナーソンほか、デンマーク、2012年

『スペース・スタリオンズ』


「スペース・スタリオンズ!」という華々しいタイトルコールでこの作品は始まる。それぞれ能力の異なる4人の戦士が、馬の形をした宇宙船に乗って、悪者宇宙人と戦う。その途中では、仲間が敵につかまったり、挫折して涙したり、そんな苦難を乗り越えて敵を倒していく……という壮大な物語のオープニングのみだ。デンマークの面々が80年代のSFカートゥーンを愛しすぎて作ってしまったという映像だが、なぜか本編を見たような気になるし、懐かしい感じもする、そんな作品だ。


■宇宙人に会いに行って、もやもやして帰る…

このアニメ短編集『変態アニメーションナイト2017』の上映を主催しているのが、ニューディア―社の土居伸彰氏だ。


ニューディア―社 土居伸彰氏


土居氏は学生時代から短編作品を研究していたが、なかなか映画館などではかからないゆえに、自ら上映企画を始める。そのうちのひとつとして、2012年、ワンナイトイベントとしてこのプロジェクトをスタートさせた。話題になるように「変態」という言葉をタイトルに付け、キャッチーさを狙った。
当時は1本流しては、アニメーション作家の水江未来氏と解説する一回限りのイベントという形式をとっていたが、回を重ねるごとに注目を集め、固定ファンもつくようになり、2014年から不定期に映画館向けのロードショー公開を行うようになった。今回はその二回目で、不思議な短編が19本100分流される。土居氏いわく「宇宙人に会うつもりで見に来てほしい」。その上で「投げっ放しの100分、観客に作品を持って帰ってもらいたい」と語る。観た人に“脳を解きほぐして” 咀嚼してもらいたいのだとか。中毒性の高い、何度も観たくなるような上映を目指している。


■ダナ・シンクのミステリー・シリーズ 『自転車』-ダナ・シンク、アメリカ、20132015年

『自転車』


ボールがパイプの上を転がっていく。針金がモジャモジャする。カップが回っている。画面いっぱいにいろんな無機質なものがそれぞれに動いている。最初は、何が何だかさっぱりわからない。そしてそれが徐々に早回しになっていく。するとそこに浮かび上がってくるのは…、そうか「自転車」かと、ハタと気づかされる。
一緒に上映される『Power』も、最初は分からないが、徐々にあるものの姿が見えてくる。
例えば、だまし絵の中に隠されていた別の画に気づいた瞬間の、「わかった!」というひらめきや爽快感が近い。これは、アニメーションを通した“アハ体験”だ。


■ムチャクチャなコンテンツに需要!

しかし、いったいこんな作品がどうして人気を集めているのだろうか?
客層は20代前半、男女比は半々だと言う。アニメが30代、ミニシアターが40代から50代が中心だと考えると、そのいずれとも異なる。
土居氏は「今はムチャクチャなコンテンツに需要がある」と分析している。アニメで言えば「KING OF PRISM」、TVのバラエティ番組で言えば「あらびき団」に通じるものがあると言う。
若年世代はストーリーではなくビジュアル性、イベント性、ライブ性を求めている。それがSNSで拡散し、人気に繋がっていると土居氏は語る。

そんな“ムチャクチャな”短編が山盛りの『変態アニメーションナイト2017』だが、土居氏のおススメ作品を聞いてみた。


■『アンハッピー・ハッピー』-ピーター・ミラード、イギリス、2016年

『アンハッピー・ハッピー』


土居氏「現在、ピーター・ミラードが世界で最も自由なアニメーション作家だということが分かる一本。頻繁に動きが止まるわ、全く絵が映らない暗黒のシーンがかなり長いこと挿入されるわ(映写機が壊れたのかといつも不安になってしまう)、動いたとしてもなんかよくわからない抽象模様がうねうね動いているだけだわ、とにかくやりたい放題…でもなぜか、観ていると、途方もない感動に襲われてしまう…ゴダールかエヴァンゲリオンか、という実験性もあります。」


■『ウィンク・ラビット』-ホン・ハクスン、韓国、2014年

『ウィンク・ラビット』


土居氏「今夏日本公開の韓国映画『隠された時間』でイケメン主人公が描くイラストに採用されたりと、韓国でひそかに人気、ネクストブレイク候補のホン・ハクスンと、その代表的キャラクター「ウィンク・ラビット」がとにかく暴れまわる作品。主人公はウィンク連発で、一見ホンワカした世界なのに、そのあまりのしつこさに恐怖を感じるようにもなってくる… でもこれも、観ていると次第に脳みそが(まるで温泉に入ったときのように)柔らかくなってくるのを感じてきます。純粋な創造を楽しんでいるのだなという感動も…」


■エピローグ

この『変態アニメーションナイト2017』はアートのようであり、ビデオドラッグのようでもあり、ノイズミュージックのようでもある。“ストーリー作品は1回見たら飽きる、体感性を求める”といったコアで先進的な客層を取り込む、エンターテイメントの新しい流れではないだろうか。最近では、VRや4Dのように五感に訴えるエンターテインメントが人気だが、変態アニメーションは、それを音と映像のみでやろうとしているのかもしれない。


『変態アニメーションナイト2017』
http://newdeer.net/hentai2017/

ニューディア―
http://newdeer.net/



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(記事:中村 健一)
(取材協力:菅 ななえ)

本記事は、エンタテインメントの研究をしているフィールズ研究開発室(FRI)のメンバーが、日頃の活動の中で気になったことに目を向け、独自取材に基づいて、執筆しています。


 

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